相続を考えるうえで、さまざまな事情があり、特定の相続人にご自身の遺産を引き継がせたくないと考える方もいらっしゃるかと思います。
相続の権利を被相続人の意思によって引き継がせないようにすることは可能なのでしょうか。解説していきたいと思います。
【この記事のポイント】
- 相続人廃除とは?
- 相続人廃除が可能な理由
- 相続人廃除と欠格事由の違い
相続人廃除とは?
相続人廃除とは、簡単に言うと、被相続人の意思によって、遺留分を有する相続人から、その権利をはく奪することを指します。
とはいえ、相続権は非常に重要な権利なので、特定の相続人が嫌いだから、気に入らないからといった理由だけでは成立しません。
相続人廃除を行うには理由が必要
相続人廃除を行うには、民法で定められた下記の理由が必要です。
- 虐待をしたとき
- 重大な侮辱を加えたとき
- 推定相続人に著しい非行がみられたとき
1.虐待をしたとき
相続人が、被相続人に対し、過去に暴力や必要な介護を怠った場合や虐待を行った等の場合に相続人廃除を行える理由となります。
暴力等によって虐げたわけですから、当然と言えば当然と言えるかもしれません。
2.重大な侮辱を加えたとき
相続人が被相続人に対し侮辱する行為をした場合、相続人廃除を行える理由となります。
重大な侮辱とは、被相続人-相続人の関係が壊れるほど、重大な侮辱のことを指します。
3.推定相続人に著しい非行がみられたとき
推定相続人(相続が発生した場合に相続人になるひと)に著しい非行があった場合、相続人廃除を行える理由となります。
すべての非行が対象というわけではなく、その非行によって被相続人が虐待や侮辱行為と等しく、精神的苦痛等を感じた場合に限られます。
例としては、金銭的に迷惑をかけた場合、重大な犯罪を犯した場合等があります。
相続人廃除はこれら、いずれかの理由がなければ利用することはできません。
相続人廃除と相続人欠格事由との違いは?
相続人廃除と混同されがちなものとして、相続人の欠格事由というものがあります。
相続人の欠格事由とは、本来相続人であったひとが一定の事情によって相続の権利を失うことを指します。
欠格事由は、民法にも定められており、次のようなものになります。
(相続人の欠格事由)
第八百九十一条 次に掲げる者は、相続人となることができない。
一 故意に被相続人又は相続について先順位若しくは同順位にある者を死亡するに至らせ、又は至らせようとしたために、刑に処せられた者
二 被相続人の殺害されたことを知って、これを告発せず、又は告訴しなかった者。ただし、その者に是非の弁別がないとき、又は殺害者が自己の配偶者若しくは直系血族であったときは、この限りでない。
三 詐欺又は強迫によって、被相続人が相続に関する遺言をし、撤回し、取り消し、又は変更することを妨げた者
四 詐欺又は強迫によって、被相続人に相続に関する遺言をさせ、撤回させ、取り消させ、又は変更させた者
五 相続に関する被相続人の遺言書を偽造し、変造し、破棄し、又は隠匿した者
確かに2つの制度は、本来相続人であった者が相続する権利を失うといった点では同じです。
これらの理由のいずれかに当てはまった場合は、裁判所の手続きを介すことなく相続の資格を失うこととなります。
相続人廃除と相続人の欠格事由の大きな違いは2つあり、以下の表の通りとなります。
家庭裁判所の手続き | 被相続人の意思 | |
---|---|---|
相続人廃除 | 裁判所で相続人廃除を申立て、審理が必要となる | 必要 |
相続人の欠格事由 | 必要なし | 必要なし |
上記の表をご確認いただけるとお分かりの通り、相続人の欠格事由は、被相続人の意思、家庭裁判所の手続きを経ず、自動的に相続人の権利を失うということになります。
ただし、欠格事由の有無が争われる場合は、相続権不存在確認請求が必要になります。
相続人廃除は2つ方法がある
相続人廃除を行う場合、必ず裁判所に相続人廃除の申立てを行い、その審判を経て、認められます。
ただし、その申立て方法には以下、2通りの方法があります。
- 生前に推定相続人の廃除を行う
- 遺言書で相続人廃除に指定する
生前に相続人廃除を行う
相続人廃除は、被相続人が生前に裁判所へ相続人廃除を申し立てることによって行えます。
これを推定相続人の廃除と言います。
推定相続人の廃除は、審判で廃除の可否を問うこととなりますので、当該相続人を廃除したい理由を詳細に申述する必要があります。
相続人の廃除は裁判所が審理を経て、判断することとなりますので、廃除理由を明確に伝えることが大切です。
遺言書で相続人廃除に指定する
相続人廃除は、廃除したい相続人を遺言書に記す方法もあります。
遺言書で指定する場合、すでに亡くなっている被相続人に代わり、遺言執行者が相続人廃除の手続きを裁判所に申立てます。
したがって、相続人廃除がしっかり履行されるよう、以下の点に気を付けて記しておきましょう。
- 相続人廃除をしたい相続人の明記
- 相続人廃除をしたい明確な理由
- 遺言執行者の指定
相続人廃除をしたい相続人の明記
相続人を廃除したい場合、廃除したい相続人の名前をしっかり明記しておきましょう。
自分の息子を相続人廃除してほしい、等といった個人名を表記せずにいると、被相続人の息子が複数いる場合に、記述があいまいなため、履行されない可能性がありますので気を付けましょう。
相続人廃除をしたい明確な理由
相続人廃除を行いたい場合、当該相続人の廃除理由を明確に記しておいてください。
前述しましたが、単に、「嫌いだから」「気に入らないから」といった理由では、裁判所に相続人廃除の理由として認められません。
したがって、「当該相続人に継続的に虐待をされていた」等廃除したい理由を記載するとともに、虐待の内容や、侮辱された言葉、精神的苦痛を与えられた非行の内容等詳細に記しておくべきでしょう。
遺言執行者の指定
相続人廃除の場合、遺言者執行者の指定が必要です。
まずは、下記の例をご確認ください。
遺言書
①長男は、私に暴力をふり、重大な侮辱したため、相続人から廃除する。
②遺言執行者として、弁護士○○を指定する。
〇年〇月〇日
相続人 〇田〇男 ㊞
遺言書で相続人廃除を行う場合、遺言者に代わり、遺言を執行してくれる遺言執行者が必ず必要となります。
上記の遺言書のように遺言執行者が指定されていれば、指定された人が遺言者に代わり手続きを行ってくれます。
では遺言執行者を指定していない場合、どうなるのでしょうか。
遺言書で遺言執行者が指定されてなくても、その遺言内容が無効になることはありません。
ただし、前述の通り、相続人廃除を行うには、遺言執行者が必ず必要となります。
そのため、遺言執行者の指定がない場合、相続人が家庭裁判所に、遺言執行者の選任の手続きを行うこととなります。
相続人廃除を行う前に遺言執行者の選任の手続きをしなければならないため、相続人廃除の手続きに時間がかかってしまう可能性があります。
そのため、相続人廃除を遺言書に残すときには、遺言執行者を指定しておいた方が良いでしょう。
相続人廃除を行うなら専門家に依頼しよう
今回は、相続人廃除について解説しました。
何かしらの事情があり、相続人廃除を利用したい場合、裁判所に申述する廃除理由がかなり重要となっていきます。
相続権のはく奪は、非常に重大な問題となりますので、裁判所も廃除に慎重になります。
したがって、相続人廃除を行いたいときには、弁護士等の専門家に相談、依頼することを検討してください。
この記事を監修した弁護士は…
【事務所】優和綜合法律事務所
【弁護士】内藤 政信
【所属】第一東京弁護士会所属
【一言】東京の錦糸町で35年以上弁護士として活動しています。ご依頼者様の立場にそって、より良い解決方法を目指し対応しております。お気軽にご相談ください。
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