日本は、2007年に総人口に占める高齢者の人口が2割に達し、超高齢化社会に突入しました。高齢化が進むなかで、人生の総括としての終活が注目を集め、2012年の流行語にも選出されました。
終活の一貫として、遺言書に関しても注目されています。他方で、これからますます進むであろう国民の高齢化に向け、2019~2020年にかけて、自筆証書遺言に関する法律も改正されました。
相続のトラブルの防止策として有効な遺言書。しかしながら、具体的にどのような事柄に効力を発揮するのか、ご存じない方もいらっしゃるでしょう。
今回は、遺言書の効力について詳しく確認していきたいと思います。
遺言書は、自筆証書遺言・公正証書遺言・秘密証書遺言と種類がありますが、記載内容に不備が無ければ、どの方法を選んでも、下記の効力を持ちます。
- 相続人の廃除
- 相続分の指定
- 遺産分割方法の指定と分割の禁止
- 遺贈すること
- 子供の認知
- 後見人の指定
- 相続人相互の担保責任の指定
- 遺言執行者の指定、指定の委託等
イメージがつきにくいと思いますので、上記項目を解説していきたいと思います。
1.相続人の廃除
相続人廃除とは、問題行動のある推定相続人を指定し、相続権が発生しないように家庭裁判所に請求する方法です。
ただし、誰でも廃除できるわけではなく、遺留分を有する推定相続人が次の事由に該当する必要があります。
- 被相続人に対して虐待をし、もしくは被相続人に重大な侮辱を加えたとき
- 上記のほか、推定相続人に著しい非行があったとき
参考:民法第892条
廃除したい推定相続人がいる場合、上記のどれかに当てはまらなければなりません。また、廃除の手続きは、個人的判断でおこなえる手続きではありません。
遺言書で廃除の手続きしたい時には、遺言執行者を指定し(※)、指定した方が家庭裁判所に相続人廃除の申し立てをするといった流れになります。
更に付け加えると、家庭裁判所へ申し立てをおこなえば、かならず認められるわけではないということを理解しておく必要があります。相続人の廃除の可否は、被相続人と当該推定相続人の事情を鑑みて家庭裁判所が判断します。
したがって、遺言書で相続人の廃除をしたい時には、詳細の内容を記載しておいた方が良いでしょう。
※遺言書にて遺言執行者が指定されていない場合には、家庭裁判所が指定することになります。
2.相続分の指定
遺言書では、被相続人の遺産を、「どの相続人にどれくらい残すか」を指定することが可能です。ただし、兄弟姉妹以外の相続人には、最低限度の遺産の取り分である遺留分の請求が認められています。
そのため、相続人が複数いる場合、指定した財産を極端に分配すると、遺留分をめぐって遺産トラブルに発展する可能性があるので注意しましょう。
3.遺産分割方法の指定と分割の禁止
遺言書では、自分の残した財産や権利をどのように分割するかの方針を残すことが出来ます。また相続開始から5年以内の範囲で遺産分割を禁止することも可能です。少しイメージがつきにくいかもしれないので、以下に具体例を用意してみました。
【例】被相続人は、遺言書で以下の内容を残した。
①遺産分割は、被相続人の死後2年経過してからおこなうこと。
②自宅である土地や建物は配偶者である○○に相続させる。
③自宅以外の相続財産については、遺産分割協議で話し合ってほしい。
相続人は原則として、遺言書の内容に沿って相続財産を分けることになります。上記のような場合、②は相続分の指定がなされています。
③で指定されているとおり、その他の財産については、遺産分割協議をおこなうことになります。また遺産分割協議の時期に関しても相続開始から2年後になります。
4.遺贈すること
遺言書では、相続人以外に自分の遺産を残すことが可能です。相続人以外にも遺産を譲ることを遺贈と言います。法律用語では、遺産の受け取り手のことを受遺者、遺産を残すひとを遺贈者と呼びます。
遺贈をするにあたっての注意点として、遺留分を超える遺産を遺贈しないようにすることです。
遺留分を超える遺産を取得した受遺者は遺留分侵害請求権を持つ相続人から、侵害した遺留分を請求される可能性が高くなります。
5.子供の認知
被相続人に認知していない子どもがいる場合には、遺言書で認知することが出来ます。
婚姻関係を結ばずに、出産した子どもの父親は、認知の手続きを経ないと、血のつながりあったとしても法律上は親子関係ではありません。
遺産相続では、認知の手続きをすることによって、認知する子供に相続権が発生します。
状況によっては、残された家族と、新たに認知した子どもとのあいだで大きなトラブルになる可能性があるので注意しましょう。
6.後見人の指定
被相続人の死亡によって、子どもが未成年であった場合、その子どもの後見人を指定することが出来ます。
ただし、当該の未成年の子どもに、他の親権者がいた場合には、親権者の権利が優先されます。
なお、後見人に与えられる主な権利として、未成年の子どもの財産管理や、法律行為の同意権、代理権などになります。
7.相続人相互の担保責任の指定
通常、相続した遺産に瑕疵があったり、第三者のものであったりしたときの担保責任は、たとえ自身が相続をしていないものであっても、相続人全員で分担して負うことになります。
しかしながら、遺言書で担保責任を負う相続人を指定した場合、そのひとが責任を負うようにすることが出来ます。
8.遺言執行者の指定、指定の委託等
遺言執行者とは、亡くなった被相続人に代わり、遺言内容を執行する人のことを指します。
遺言書では、遺言執行者を指定することが出来ます。また、遺言執行者の選定に不安がある場合には、専門家に選定を委託することも可能です。
遺言執行者は、遺言書の内容を被相続人の望みに添えるよう、行動してくれますので遺言書を残した場合には、指定した方が良いかもしれません。
こちらの記事を監修した司法書士は…
【司法書士】近藤 文義
【所属】千葉県司法書士会
【一言】
弊所では、行政書士・社労士・FP等複数の資格を保持者がおり、ご依頼者様のお悩みにワンストップで対応しております。まずは、お気軽にご相談ください。
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