【弁護士監修!】家族信託は開始時期を自由に決められる?メリットと注意点を確認しよう

この記事の監修者:弁護士 馬場龍行

【所属事務所】弁護士法人えそら(第一東京弁護士会)

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【この記事のポイント】

  • 家族信託の開始時期についてわかる
  • 家族信託の終了時期についてわかる
  • 家族信託の開始時期の注意点について確認できる

 

家族信託の開始や終了時期はどうやって決めるの?

家族信託は、信頼できる家族等に、自分の財産の一部または全部を信託財産として委託し、自分に代わって財産処分や資産運用等、財産管理を行ってもらうものです。

資産運用等で得た利益を受益者として指定されたひとへ分配されるシステムです。

家族信託の利点として、委託者の希望に沿って自由にカスタマイズできることが挙げられます。

家族信託の開始時期や終了時期についても自由に決めることができます。

とはいえ、ちょっと想像がつかないかもしれませんので、それぞれ詳しく確認していきましょう。

家族信託の開始時期は自由に決められる

家族信託の開始時期は、原則として委託者と受託者が信託契約を結ぶことによって、開始するとされています。

しかしながら、開始時期の設定をあらかじめ信託契約の中に盛り込んでおくことで、自分の都合の良いタイミングで始めることができます。

例えば、今はまだ元気だから、病気等で入院したタイミングで、家族信託を開始したいなんてことも可能です。

家族信託の終了時期は自由に設定できる

家族信託の終了時期は、自分で自由に設定することができます。

ここでいう終了とは、信託の目的が達成されたときのことを指します。

信託の目的を決めるのは、財産を委託する委託者になりますので、何をもって信託の目的の達成とするかによってそれぞれ終了時期は異なります。

信託の達成以外に、下記のような場合、信託は終了します。

 

  • 特別な事情があり、信託の目的が達成できなくなったとき
  • 受託者が資産運用等によって得た利益を自己の財産として1年間保有した状態が続いたとき
  • 特別な事情があり、受託者がいない状態で、新しい受託者が就任しない状態が1年間続いたとき
  • 家族信託で運用する財産が不足し、受託者が委託者及び受益者に、その旨を通知し、信託財産の補充が一定期間を過ぎても無かったとき
  • 信託の併合があったとき
  • 特別な事情や、信託内容が公益に反しており、信託の終了を命じる裁判があったとき
  • 信託財産について破産手続き開始の決定があったとき
  • 委託者が破産や再生手続き等の決定を受け、信託契約が解除されたとき
  • 受託者の信託行為が信託契約で定めた解除等の事由に当てはまったとき
  • 委託者と受益者双方の合意をもって信託を終了したとき(※)

※委託者と受益者の合意があればいつでも信託を終了することができますが、受託者がそれによって不利益を被る場合には、損害賠償請求される可能性があります。

 

上記は信託法という法律によって定められています。

信託の終了時期は、信託契約においてとても重要な事項となります。

したがって、信託の目的の達成、信託契約の解除事由等をしっかり決めた方が良いでしょう。

家族信託の開始時期や終了時期の設定に関する注意点

家族信託の開始時期や終了時期の設定について、しっかり考えて取り決めておかないと、信託を開始できなかったり、終了時に困ってしまったりするケースがあります。

早速確認していきましょう。

不動産の名義変更及び信託登記ができないことがある

家族信託で、信託財産を不動産に指定した場合、開始時期によっては不動産の名義変更及び、信託登記が行えない可能性があります。

信託財産を不動産に指定した場合、必ず行わなければならないのが、当該不動産の名義を委託者から受託者に変更し、信託財産として名義変更を行ったことを登記することです。

例えば、信託開始時期を、「認知症と医師から診断された時から信託を開始する」と設定したとします。

認知症を発症すると、程度にもよりますが、判断能力を欠いた状態とみなされるケースが多いです。

日本の法律では、判断能力を欠いた状態で法律行為を行うことができません

判断能力が欠けたひとが法律行為を行ったとしても、その行為自体が無効になるのです。

不動産登記も法律行為に分類されるので、委託者の判断能力が欠いている状態では手続きができません

それならば、委託者に代わって専門家等に手続きを代理してもらえばいいと考える方もいらっしゃるかもしれません。

しかし、不動産登記の委任自体も法律行為なので、たとえ委任状を書いたとしても無効となります。

このような事態を回避するためにも、開始時期についてはしっかり考え設定した方が良いでしょう。

信託終了時に残った財産に多額の贈与税や相続税がかかるケースがある

家族信託が終了となった場合に、信託財産が残るケースがあります。

信託終了後に残った財産を信託の残余財産と言います。

信託の残余財産は、その所有者によって多額の贈与税や相続税がかかることがあります。

まずは、信託財産の残余財産の清算方法について確認していきましょう。

残余財産は、信託契約に終了後の所有権について明記されていない場合、委託者に所有権が戻ります。

信託契約に所有権の指定がある場合には、その指定されたひとが財産を所有することになります。

少しわかりにくいので、下記の例をご参考ください。

【信託契約に信託終了後の残余財産の所有について記載がある場合】

◆例:太郎さんは、息子の二郎さんと信託契約を下記のように設定した。

【家族信託契約の設定】

委託者:太郎さん

受託者:二郎さん

受益者:太郎さん

信託財産:1,000万円

信託終了の設定:太郎さんが亡くなったとき

信託終了時の財産指定:受託者の二郎さんに信託財産をわたす

信託契約を結んで2年後、太郎さんが亡くなり、信託が終了した。
終了時の信託の残余財産は1,500万円あった。

上記の場合、信託契約で信託終了時の残余財産の帰属先を二郎さんに指定してあるので、1,500万円は二郎さんが所有することになります。

 

【信託契約に信託終了後の残余財産の所有について記載がない場合】

信託契約に信託終了後の残余財産の所有について記載がない場合、委託者が亡くなっているかどうかで財産の帰属先が変わります。

◆例1:委託者が存命中の場合

一郎さんと娘のいちこさんは、信託契約を下記のように設定した。

【家族信託契約の設定】

委託者:一郎さん

受託者:いちこさん

受益者:一郎さん

信託財産:2,000万円

信託終了の設定:一郎さんが亡くなる、もしくは癌が完治したとき

※癌は術後、5年再発しなかった場合、完治したとみなされます。

信託契約を結んだ当時、一郎さんはステージ3の癌を患っていたが、手術等の治療を行った。
手術後、5年経過し、転移等見られないことから、 医師から癌の完治を言い渡された。
一郎さんの癌が完治したことで、信託の目的が達成し、終了となった。
終了後、信託の残余財産は800万円あった。

上記の場合、委託者である一郎さんが存命のため、残余財産の帰属先は一郎さんとなります。

◆例2:委託者が亡くなっている場合

三郎さんと息子の四郎さんは、信託契約を下記のように設定した。

【信託契約の設定】

委託者:三郎さん

受託者:四郎さん

受益者:三郎さん

信託財産:2,000万円

信託終了の設定:三郎さんが亡くなったとき

信託契約を結んで3年後、三郎さんは亡くなった。
終了時の信託の残余財産は2,500万円あった。
三郎さんには、四郎さんの他に、妻と息子の五郎さんがいる。

上記の場合、本来の所有者である三郎さんが亡くなっているため、本人に財産を返すことができません。

このようなケースでは、残余財産を三郎さんの相続財産として扱います。

相続人は、三郎さんの妻、四郎さん、五郎さんです。

相続財産は、遺言書が無い場合、相続人全員で遺産分割協議を行い、分けることとなります。

今回の信託の残余財産は、遺産分割協議によって所有者が決まります

このように、信託契約に信託終了時の残余財産の指定先を取り決めておけば、委託者が自由に残余財産を振り分けることができます。

しかし、残余財産の所有権を譲渡すると、残余財産の額によっては、譲渡された側が、贈与税や、相続税等を支払わなければならなくなります

 

例えば、贈与税の非課税額は1年間に110万円です。

つまり、委託者以外が110万円を超える残余財産を取得した場合、贈与税を支払う必要が出てきます。

また、委託者が死亡した場合も、その遺産額によっては相続税を支払わなければならない可能性があります。

特に、委託者と血縁関係が無い場合や、配偶者及び1親等(※)以外の親族が相続財産として、残余財産を取得した場合、相続税は2割加算されます。

このように、信託契約で残余財産の所有者を指定した場合には、その指定されたひとに負担がかからないよう、配慮する必要も出てくるので注意が必要です。

※1親等とは両親、子ども(養子を含む)を指します。

 

家族信託の利用を検討するなら弁護士に依頼しよう

今回は家族信託の開始時期や終了時の設定について詳しく解説していきました。

家族信託は、委託者の意向に沿って自由にカスタマイズできる便利な制度ですが、契約内容に漏れがあると、ご自身やご家族等が不利益を被る可能性もあります。

したがって、家族信託の利用を検討する場合には、弁護士等の専門家に相談することをおすすめします。

この記事を監修した弁護士は…

 

【事務所】弁護士法人えそら
【弁護士】馬場 龍行
【所属】第一東京弁護士会所属
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