認知症になると口座凍結を凍結されるかも…?
年を取ると、物忘れがひどく悪くなってしまったねえ。ぽんぽん忘れていってしまうのよ。
そうねえ。私も最近カードとか通帳の管理とか、どこにしまったのか忘れてしまって、家中ひっくり返して探しちゃったわ。
そうよね。私も、子どもに「しっかりしてよ」と叱られちゃったわ。でも年には勝てないもの。
今はまだ自力でなんとかできるけど、この先認知症とか物忘れがひどくなったら…どうしようか心配よ。
確かに心配…。認知症になったら、何かできなくなるのかしら…?
認知症が進行すると、銀行でご自身の口座からお金がおろせなくなる可能性があります。
認知症とは、病気や加齢、障害などで判断能力がにぶったり、なくなったりする状態のことで、アルツハイマーや脳血管性のものなど様々な種類があります。
銀行側は、預金者の判断能力が鈍っている場合、その預金者の財産を守るために口座凍結の手段を講じることがあります。
認知症になると預金がおろせなくなる?
結論からお伝えしますが、認知症で判断能力が欠けていると認められると、銀行が口座を凍結します。
本人名義の預金がおろせなくなるなんて、とても理不尽に思えますよね。
でも、銀行や信用金庫などの金融機関も、いじわるで口座凍結などの措置を行うわけではありません。
判断能力が著しく欠けている状態でお金をおろすと、預金者の不利益になりかねないため、予防策の為に口座を凍結するのです。
認知症での口座凍結の場合、
- 認知症患者が金融機関に訪れ、銀行側で判断能力がないとし、口座凍結を行う
- 本人の代わりに家族が銀行の手続きを行ったときに、認知症が発覚し口座凍結される
これらのシチュエーションが考えられます。
また、口座凍結は認知症が発症した時だけでなく、下記のような場合にも口座凍結されます。
- 当該口座が不正利用、不正利用目的で使用されたと発覚したり、疑いがあったりするとき
- 口座名義人が死亡したとき
認知症における口座凍結は、明確に法律で定められているわけではありません。
しかし、多くの金融機関では、預金者の利益を守るため、預金引き出しなどの取引が行うに十分な判断能力がないと判断した場合に口座凍結を行うケースがあります。
認知症で口座凍結される判断基準
金融機関側の口座凍結は、認知症を発症したからといって行われるわけではありません。同じ認知症でも進行具合で症状が異なります。
そのため、口座凍結するか否かは次のような基準で考えられるケースが多いようです。
- 本人が金融機関におもむけるかどうか
- 本人の名前や、生年月日を言えるかどうか
- 直筆でサインを行えるかどうか
上記は、口座名義本人の状態が良好であれば、いずれもそこまで労を要しないものばかりです。つまり、口座凍結は、口座名義人の判断能力が著しく欠けた状態で適用されると考えられます。
認知症が進行すると、トイレや食事などの生理現象も忘れることがあり、自分自身が誰なのかさえ思い出せないこともあるのです。
このような状態では、判断能力を有しているとはいえません。
口座凍結されると、預金があっても生活費等も引き出しができません。たとえ、介護施設の資金など、のっぴきならない理由であっても、引き出しができません。
また、定期預金の解約、新たな引き落とし設定なども行うことができなくなります。
つまり、何かしら措置を行わない限り、凍結された口座での取引がかなり制限されてしまうのです。
できれば、認知症を発症に備えて、対策を打っておきたいところですが、そんな制度はあるのでしょうか。
認知症対策①任意後見を利用してみる
認知症になると、口座が凍結されてしまうのね…。引き出しもできないなんて、絶対に家族に迷惑をかけちゃう!
うちの息子も子どもが3人いるし、なかなか家計が大変みたい。もしも私の口座が凍結されたら、負担がかかっちゃうわね…。何か方法はないのかしら。
年を取ったら誰でも認知症になる可能性があるものね…。便利な制度、あればいいのに。
認知症発生前に利用できる任意後見
後見人というと、未成年の後見や後の章で解説する法定後見のイメージをお持ちの方が多いかもしれません。しかしながら成年後見制度には、任意後見という制度もあります。
法定後見と任意後見の大きな違いは、後見人についてです。
法定後見は、判断能力が鈍ってから、裁判所に後見人等の申立てをする制度です。つまり、対象のひとが元気なうちは、申立てをすること自体ができません。
一方で、任意後見は、対象者が元気なうちに後見人を決めることができ、認知症等を発症し、判断能力が鈍ったときに備えることができるのです。
任意後見とは、将来ご自身や、ご家族の認知症等で判断能力が鈍った場合に備え、あらかじめ任意後見人を自分で決め、契約することを言います。
任意後見の契約は必ず公正証書で作成する必要があり、法律でも定められています。
任意後見の契約を事前に結んでおけば、いざ認知症を発症したときでもその契約に沿ったサポートを任意後見人が行ってくれます。
任意後見では、自分の信頼できるひとを後見人にすることができます。ただし、任意後見をスタートさせるためには、家庭裁判所で任意後見監督人を選任してもらう必要があります。
任意後見監督人とは、任意後見人がしっかりと仕事をしているか、不正がないかをチェックする役目のひとです。
家庭裁判所で任意後見監督人を選任してもらった場合、被後見人の財産から毎月、2万円程度の報酬を任意後見監督人に支払う必要(※1)があります。
なお、基本的には一旦任意後見がスタートすると、本人が亡くなる、もしくは後見が必要ないほど、判断能力が回復するまで継続されます(※2)。スポット的な利用はできないのでご注意ください。
※1具体的な報酬額は財産の総額や後見監督人の負担の程度により異なります。
※2任意後見人の健康事情や遠隔地への転居などを理由に家庭裁判所が許可した場合には、任意後見契約を解約できるケースもあります。
認知症対策②家族信託を利用してみる
任意後見制度かー。事前に契約しておけば、自分の信頼できるひとを後見人に指定できるなら安心ね。
うーん…でも。
どうしたの?
元気なうちに、介護費用とかにかかる分を渡して、お金の管理を家族にいろいろやってもらえるっていう制度ってないのかしら?どうせなら、その費用をころがして、多くしてもらえたなら万々歳なんだけど?
そんな制度があったらすごく便利ね!でもさすがにないでしょー。
そうよね…。
自分にぴったり合ったプランで利用できる家族信託
認知症の対策として、2つ目に挙げられるのは、家族信託です。信頼できる家族にご自身の財産を委託し、財産管理や、積極的な資産運用をして得た利益を、得られるといったシステムです。
家族信託は、利用するひとの意向に沿ったプランを作成することができます。
また、財産を委託したひと(以下委託者)が認知症になったとしても、財産はすでに委託財産を管理しているひと(以下受託者)の名義になっているので、口座が凍結されても支障はありません。
加えて、任意後見とは異なり、認知症が発症する前から、財産管理を任せることも可能です。
「契約書を読むのがツラい」方や、「財産管理を家族に任せたい」という方には重宝する制度と言えるかもしれません。
更に、任意後見は、後見人の財産すべてが対象になりますが、家族信託では委託したい財産を自分で選択し、預けることができます。
少しわかりにくいと思いますので、下記の例をご確認ください。
【例1】
任意後見契約を結んでから、3年後、Aは認知症になったので、Bが家庭裁判所に、任意後見監督人の選任をしてもらい任意後見がスタートした。
【例2】
そこで、家族信託を利用し、Bを受託者にし、500万円を委託した。
上記のように、家族信託は、任意後見等と異なり、自身の所有するすべての財産を委託しなくても利用することができます。
任意後見や成年後見は、一部の財産だけを管理するということはできないので、大きな利点ともいえるでしょう。
→家族信託についてもっと知りたい方は、【弁護士監修】家族信託とは?をご確認ください。
認知症で口座凍結されたなら、法定後見を利用しよう
任意後見に、家族信託かー。良いこと聞いたね。家族に相談してみようかしら。
そうね。でもちょっと気になるんだけど、認知症になっちゃって実際に口座凍結なんかされたら、どんな対応をすればいいのかしら。
確かにそうね。凍結しっぱなしっていうわけでもないわよね。どういう風に解除されるのかしら。
口座凍結をされたならすぐに法定後見の申立てを
口座名義人が認知症で十分な判断能力がないことを金融機関が知った場合、その口座はすぐに凍結されます。
金融機関では、原則として口座名義人本人が取引を行うこととしています。
本人の判断能力が落ち、引き出しなどの取引が行えないのなら、代理で家族が行えばいいと思うかもしれません。
確かに、通常何かしらの事情で、口座名義人が手続きを行えない場合、委任状等の書類があれば、取引内容によっては、委任することができます。
しかし、委任状等で取引を代理することは、委任したひとの判断能力があることが前提です。
口座名義人が認知症で判断能力が欠いていた場合、そもそも本当に本人の意思に基づいていることなのか、金融機関側は判断がつきかねます。
そのため金融機関は、たとえ家族であっても、なかなか取引をさせてくれません。
口座凍結の解除や取引の代理を行うためには、法定後見の申立てを行うのが有効です。
法定後見とは、病気や障害等で判断能力の無かったり、低かったりするひとの後見人等を裁判所が選任してくれる制度です。
後見人等に選任された場合、財産管理や、一定の法律行為の代理、取消権等の権限が付与されます。
後見・保佐・補助の3つの種類があり、それぞれ判断能力をどれくらい有しているかで、後見人等に付与される権限が異なります。
法定後見の申立てから選任までの大まかな流れは以下のようになります。
①家庭裁判所に申立てを行う
成年後見を利用するひとが住んでいる地域を管轄する家庭裁判所に申立てを行うことになります。
申立ては後見・保佐・補助に分かれており、認知症の進行度合が高ければ、後見、中度の場合は、保佐、症状が軽い場合には補助を申し立てます。
②家庭裁判所で面接&審査
成年後見の申立人や後見人等の候補者と裁判所が面接を行います。また、申し立て時に提出した書類をもとに審査を行います。
③審判
②の面接や審査を行い、家庭裁判所が後見人等に最も適したひとを選任します。
なお、候補者に適任者がいない場合や、記載がない場合には家庭裁判所が選んだひとが後見人等に指定されることもあります。
保佐や補助で申立てを行った場合、どの程度の法律行為(訴訟・不動産売買など)を代理してもらうかも決めることになります。
上記③で選任された場合、被後見人等に代わって財産管理を行うことができます。つまり、後見人等になれば、口座凍結の解除や、預貯金等の引き出しを行えるようになるのです。
ただし、後見制度をいったん開始すると、被後見人等の症状が改善するか、死亡するまでずっと後見人等の仕事をし続けなければなりません。
後見人等は付与される権限によって、さまざまな仕事を行う必要があります。加えて、1年に1回、適切に業務を遂行しているかどうかを裁判所に報告する義務があります。
報告義務を怠ると、後見人等から解任されてしまうケースもあります。
後見人等から解任されてしまうと、家族で後見人等を立てる必要があるときに選任されなくなるリスクがありますので、ご注意ください。
まとめ
今回は認知症になった場合の事前の対策と、実際に口座が凍結されたケースについて解説していきました。
口座凍結されてから、法定後見を利用して解除を試みた場合、すぐに後見人等が選任されるわけではありません。
成年後見人等が選任されるまで大体1か月から2か月程度かかると思いますので、その間に発生した費用を立て替えなければいけない可能性があります。
そのため、口座凍結がされる前に事前策を打っておいた方が良いでしょう。
まずは、任意後見や家族信託について、ご家族で話し合い、そのうえで専門家に相談してみてはいかがでしょうか。
この記事を監修した弁護士は…
【弁護士】馬場 龍行
【所属】第一東京弁護士会所属
【一言】弁護士法人えそらは、お客様の理想を実現するため、日々精進しています。相続では家族信託を中心に承っておりますので、お困りの際はお気軽にご相談ください。