おかあさん、落ち着いて聞いてね…。お父さんの遺品整理をしてたら…見つけちゃったの。督促状!しかも相手に連絡したら、返済されていないから、返せって言われちゃった…。お母さん知らないよね…?
督促状? まさか冗談でしょ! しかも、1,000万円って…。そんな大金支払えないわ!どうしましょう…。お父さんの浪費癖にはさんざん悩まされてきたけど、最後の最期まで…。ほんと、ろくでもない人なんだから…!
お父さんが残してくれた遺産とか手つかずで残してあるけど、それで支払っても、マイナスの方が大きいよ。どうすればいいのかなあ。
どうって?もう支払うしかないでしょ。今さら、借金帳消しなんて、都合の良いことできるわけないじゃない。
ちょっと待ってー!おふたりとも落ち着いてください!相続放棄と言う手段を利用すれば、借金を相続しなくても良いかもしれません。
あすくちゃん…。でも、どうすればいいの?私たちだけで出来ることかな?お母さんも私もあまり自信がないの…。
相続財産は借金だらけ!~そんな時には相続放棄を検討しよう~
相続放棄ってどんな制度?
相続放棄とは、被相続人の遺産を引き継がないようにする手続きです。
利用するケースとして、うめこさん達のように、遺産がマイナスの財産だったときや、相続トラブルに巻き込まれたくないときが挙げられます。
遺産というと、プラスの財産をイメージしがちですが、何もしないでいると、マイナスの財産もそのまま引き継がれてしまうのです。
マイナスの財産とは、今回のような借金等の債務や、被相続人が他の人の債務の連帯保証人や保証人になっていた場合、それに関しても引き継がれることとなります。
詳しくは、下の記事で紹介 しておりますので、ぜひご確認ください。
相続放棄の申請時間は短いので早めの検討を!
遺産が借金だらけだったと発覚したならば、早めに相続放棄の検討、そして行動に移った方が良いかもしれません。というのも、相続放棄は申請期間がとても短いのです。
おもな相続の手続きとともに、詳細をまとめてみましたので、ご確認ください。
相続によって発生するおもな手続き一覧
相続手続きの申請期間 | 手続き名 | 手続きの概要 |
---|---|---|
相続開始から3か月以内 | 相続放棄 | 被相続人の遺産を放棄する手続き |
相続開始から3か月以内 | 限定承認 | 遺産がプラスかマイナスか分からない時に利用する手続き |
相続開始から4か月以内 | 準確定申告 | 被相続人の亡くなった年の1月から亡くなった日までの所得税の申告をする手続き |
相続開始から10か月以内 | 相続税の申告 | 相続税が発生したときに行う申告のこと |
上記の表を確認すればお分かりのとおり、相続放棄の申請期間は、わずか3か月しか猶予がありません。 相続の開始日は、被相続人の亡くなった日、もしくは亡くなったことを知った日になります。
3か月と言うと、一見余裕がある様に思えますが、実際、被相続人のご家族の方は、葬儀、遺品整理、四十九日の法要などとやることがたくさんです。
加えて、相続放棄をするためには、被相続人の遺産を正確に把握した方が良いので、遺言書が無い場合には、財産調査も必要になってきます。
相続放棄はどこに申請すれば良い?~必要な費用も教えて!~
相続放棄は申請期限が短いのね。不幸中の幸い!まだお父さんが亡くなってから3か月経ってないわ。でも手続きって何をすればいいの?申請先は?いくらかかるの?自分で出来るか不安だわ…。
相続放棄をするとき、どこに申請をおこなえばいいの!?
相続放棄は、家庭裁判所に申し立てる(申請する)必要があります。もう少し詳しくお話すると、「被相続人の最後の住所地」を管轄する家庭裁判所です。
裁判所の管轄区域については、裁判所のホームページにある「裁判所の管轄区域」から確認することが出来ます。
相続放棄で必要な書類とは?~被相続人との関係によって用意する書類が違う?~
相続放棄で必要になる書類は、申立てを行う相続人の相続優先順位によって異なります。
ただし、すべてに共通する書類もあるので、まずは、そちらから確認していきましょう。
相続放棄で必要な書類(共通)
- 相続放棄申述書…裁判所のホームページからダウンロード可能
- 申述人の戸籍謄本(あるいは,戸籍の全部事項証明書)1通
- 被相続人の住民票の除票(あるいは,戸籍の附票)1通
これらが、相続順位に関係なく必要になる書類です。
次に、手続きを行う相続人の相続の優先順位ごとに必要となる書類を確認していきましょう。
申立人が被相続人の配偶者、または子ども(第1順位)の場合
- 被相続人の死亡の旨,記載のある戸籍謄本 1通
上記は、出生から死亡に至るまでの間に、他に実子や養子がいないことを確認するため、除籍謄本と改製原戸籍が必要になる場合もあります。
※なお、子どもが亡くなっており、孫等の直系卑属が相続放棄を行うときには、被代襲者(本来の相続人)が死亡していることが記載されている戸籍謄本が必要です。
申立人が被相続人の両親(第2順位)の場合
- 被相続人の出生時から死亡時までの連続した戸籍謄本(※) 各1通
※出生時から死亡時までつながるよう、すべての戸籍謄本が必要です。また、出生から死亡に至るまでの間に、他に実子や養子がいないことを確認するため、除籍謄本と改製原戸籍が必要になる場合もあります。
申立人が被相続人の兄弟姉妹(第3順位)の場合
- 被相続人の出生時から死亡時までの連続した戸籍謄本(※) 各1通
- 直系尊属(被相続人の両親や祖父母)が死亡している場合には,死亡の旨記載のある戸籍謄本 各1通
※出生から死亡に至るまでの間に、他に実子や養子がいないことを確認するため、除籍謄本と改製原戸籍が必要になる場合もあります。
また、兄弟姉妹が亡くなっており、甥や姪が相続放棄をおこなうときには、被代襲者(本来の相続人)が死亡していることが記載されている戸籍謄本が必要です。
相続放棄に必要な費用はいくら?
用意する書類がわかったところで、気になる費用について確認していくことにしましょう。相続放棄に必要になる費用は、申立ての手続きにかかる費用と、裁判所とやり取りする際の切手代が必要になります。
具体的な金額は以下のようになります。
申立て費用…収入印紙800円分
申立てにかかる費用は、現金ではなく収入印紙で支払います。相続放棄申述書に印紙を貼る欄があるので、貼り付けてください。
切手代
相続放棄の申し立て後、裁判所が書類を郵送する費用になります。郵送料については、申し立てる裁判所によって異なる場合がありますので、事前に管轄の裁判所のホームページをご確認ください。
以上が、相続放棄の手続きで必要な費用です。
相続放棄にかかるコストが意外と安いと感じた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
なお、上述した費用の他に「戸籍謄本」や「住民票の除票」などを取得する際、別途で費用が発生します。
取得枚数や取得方法によって費用が異なりますので、あらかじめご確認いただければと思います。
相続放棄の手続きくわしくしりたい!
STEP1.書類を家庭裁判所に提出する
相続放棄申述書とともに、用意した書類を家庭裁判所に提出しましょう。提出方法は、郵送・窓口どちらでも可能です。
窓口の受付時間については、申立てを行う裁判所によって異なることがあります。日中、お仕事をされている方は、郵送の方が良いかもしれません。
①提出書類はすべてそろっていますか?
②相続放棄申述書に収入印紙は貼ってありますか?
③切手を入れていますか?
※書類に不備があると、裁判所がおこなう審理が遅れてしまう可能性があります。提出する前には、必ずダブルチェックをしてください!
STEP2.相続放棄に関する照会書を再送しよう
書類に不備が無ければ、STEP1から10日前後で家庭裁判所から「相続放棄に関する照会書」が送られてきます。
照会書には、いくつかの質問事項が載せられていますので、抜け漏れが無いように回答してください。
申し立てる裁判所によって質問の内容が異なる場合もあるので、一概に言えませんが、割と簡単に答えられるものが多いようです。
照会書の再送期限は、大体2週間以内です。相続放棄の意思が変わらないのであれば、期限内に提出をしてください。
①質問事項に、すべて回答しましたか?
②署名欄や住所欄は記入しましたか?
③提出期限をしっかり確認しましたか?
STEP3.相続放棄受理通知書が届く(相続放棄手続き完了!)
STEP2から10日ほどで、相続放棄受理通知書が裁判所から届きます。この通知書が無事届けば、相続放棄の手続き完了となります。
なお、相続放棄受理通知書は、紛失しても再発行されません。大切な書類なので、しっかり保管しておきましょう。
相続放棄をするうえでの注意点!
相続放棄をするうえで気を付けなければいけない点もあります。
早速確認していきましょう。
相続放棄をする前に遺産に手を付けると、相続放棄が出来なくなる!?
相続放棄をする前に、被相続人の遺産について以下のような行動をとると、相続放棄が出来なくなる可能性があります。
- 被相続人の預貯金を勝手に下ろし、生活費に使用した
- 遺産をわざと壊したり、捨てたりした
なお、被相続人の葬式費用に限っては、遺産からの支払いが認められています。 ただし、度を超えた盛大な葬式を執り行なうと、対象外になる可能性があるため、ご注意ください。
一度相続放棄をしたら、ほとんど取り消しが利かない!
相続放棄が一度認められると、特別な事情が無い限り取り消しができません。相続放棄をした後になって、プラスの財産が見つかっても、相続できないのです。
したがって、相続放棄をおこなうときには、入念に被相続人の財産調査を行ってください。 なお、相続放棄の取り消しが認められるケースはおもに以下のようなものです。
- 騙されたり、脅されたりして相続放棄をしたとき
- 未成年者が、法定代理人(通常は両親)に許可を得ず、申し立てをしたとき
- 成年被後見人が相続放棄をしたとき
- 被保佐人が、保佐人に同意を得ず相続放棄したとき
上記のようなケース以外は、ほとんど取り消しが出来ないのでご注意ください。
相続優先順位が高い方が相続放棄をすると相続権が次の順位に移る
相続優先順位が高い相続人が相続放棄をした場合、相続権が次の順位に引き継がれます。
わかりにくいと思いますので、以下の例をご確認ください。
■被相続人の子ども(第1順位)が相続放棄をした場合
被相続人の父母や祖父母など、第2順位の人が存命中であれば、その人に引き継がれます。第2順位がいない場合、被相続人の兄弟姉妹に相続権が引き継がれます。
つまり、ご自身が第1順位で、被相続人の債務等を理由に相続放棄を行った場合、そのマイナスの財産を持った相続権が、相続順位の下の人へ引き継がれてしまいます。
相続放棄の連絡は、自動的に下位順位の人に行われるわけではありません。したがって、後々のトラブルを避けるためにも、相続放棄をした場合、被相続人の父母や兄弟姉妹等に連絡が取れるのであれば、連絡を行った方が良いでしょう。
まとめ
今回は、相続放棄について解説してきました。 相続放棄は、相続の手続きのなかでは、比較的簡単に行える手続きの一つです。
しかしながら、相続権を持つのが自分1人なら良いですが、他にも相続権を持つ方がいる場合、複雑になってきますので、弁護士や司法書士などの専門家に依頼を検討した方が良いかもしれません。
この記事を監修した弁護士は…
【事務所】優和綜合法律事務所
【弁護士】内藤 政信
【所属】第一東京弁護士会所属
【一言】東京の錦糸町で35年以上弁護士として活動しています。ご依頼者様の立場にそって、より良い解決方法を目指し対応しております。お気軽にご相談ください。
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