【弁護士監修!】遺言書の種類とメリットデメリットを把握しよう

この記事の監修者:弁護士 正木絢生

【所属事務所】弁護士法人ユア・エース

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A
はなさん
このまえ70歳の誕生日をむすこの家族に祝ってもらったの。うれしかったんだけど、あの子ったら「いい機会だから」って言って、わたしの死んだあとの話をするのよ。遺言書やら相続なんて…デリカシーがなくない?
B
よしこさん
あははは! そりゃタイミングは悪いわねぇ。でも、あたしたちも先はそう長くないのよ。この前、あたしもむすめと相談して、遺言書を残すことにしたわ。
A
はなさん
うーん。そういわれるとあれだけど…。むすこも、私のために提案してくれたのよね。きっと。…遺言書という言葉を聞く機会が多くなったけど、いったいどのようなメリットがあるのかしら?

遺言書を残す理由とは?

遺言書を残す理由?うーん。遺産がたくさんあるとか、子どもの仲が悪いとかじゃないの? うちは、さいわい家族仲は良いし、お金も少ないし…。必要ないんじゃない?

遺言書と聞くと、他人ごとのように感じる方が多いのではないでしょうか。実際、Aさんのように、「家族の仲がいいから」「遺産が少ないから」という理由で、遺言書を残さないひとも少なくありません。

しかしながら、かなしいかな。裁判所が発表した統計データによると、遺産額が低いひとのほうが相続トラブルにまきこまれる確率が高いです。

更に付け加えると、家族のきずなが、遺産の問題によって壊れてしまうケースもあります。お金の問題で、家族関係が簡単に壊れるとは思いたくないですが、現実にはそういったトラブルも存在するのです。

実際データを見ないと、納得できない方もいらっしゃるでしょう。下記のグラフから確認してみてください。

遺産分割事件のうち認容・調停成立件数(遺産の価額別)

※小数点第3を四捨五入しているため、合計値が100%を超えています。

参考:遺産分割事件のうち認容・調停成立件数(「分割をしない」を除く)  遺産の内容別遺産の価額別  全家庭裁判所

上記のデータは遺産分割がうまくいかず、調停を申し立てることによって、トラブルが解決した件数のデータになります。遺産が1,000万円以下で3割、5,000万円以下になると全体の7割以上を占めます。

このことから、相続トラブルは、遺産の金額が低くても起こりえるトラブルだと言えそうです。

遺産分割協議にはトラブルが多い?

遺産分割協議とは相続人全員で、被相続人の遺産の取り分を決める話し合いのことを指します。法的効力が発生する条件として、かならず相続人全員で取り決めをおこなわなければいけません。

仮に、一部の相続人だけで遺産の取り分を決めても、法的効力を持たず無効になります。遺産分割協議は、相続人全員の参加が原則(※)であるということを覚えておきましょう。

相続人同士が争うことなく、各相続人の遺産の取り分を決めることが出来れば、家庭裁判所で調停を申し立てる必要はありません。

しかし、「自分の遺産の割合が気に食わない」「○○は、介護をしなかったのに、お金をいっぱいもらうのは不公平」といった不満があると、相続人同士のトラブルに発展する可能性が高くなります。

当事者同士で折り合いがつかず、解決できない場合、家庭裁判所に調停を申し立て、調停委員をまじえて、遺産の分配について話し合うことになるのです。

※相続人が未成年や成年後見の被後見人であったときには、後見人が代理で参加することになります。また、被保佐人や被補助人等であった場合にも、ケースによって保佐人・補助人の同意が必要になるケースもあります。

遺言書は法的効力が強い?~争いを避けるに有効な遺言書の効果~

遺産争いの原因のひとつとして、遺産分割協議でのイザコザであることが多いです。事前にトラブルを回避するための対策はあるのでしょうか。

遺産分割協議を事前に阻止するための手立てとして、遺言書を残すことが挙げられます。 

「遺言書」がある場合には、遺産分割協議を開かずに済むケースもあるのです。

なお、遺産の取り決める方法をざっくり分けると、「遺言書」と「遺産分割協議」のふたつになります。どういうことなのか、分かりにくいと思いますので、以下に表でまとめてみました。ご確認いただければ幸いです。

優先順位遺産の取り決め特徴
1位遺言書(遺産指定あり)被相続人が遺産を残したい人に指定することが出来る。なお、指定するひとは相続人のみでなく、血縁関係なく指定できる。
遺言書(遺産指定なし)遺産分割協議の開催の時期の指定や、遺言執行者を指定しておくことで、スムーズに遺産の分配を進めることが出来る。
2位遺産分割協議(遺言書なし)相続人全員で、遺産の取り決めをおこなうことになる。一部の相続人を除いて取り決めをおこなっても、無効。
3位遺産分割協議(法定相続)遺産分割協議にて、法律によって定められた割合で遺産を振り分ける方法。不動産や動産など、分けられない財産の場合、共同名義にすることがある。

表を確認してみると、遺産分割協議をするにしても遺言書を残しておいた方がよさそうですね。遺言書で取り決めのルールを決めておけば、相続人同士の争うリスクを下げられることができます。

遺言書にお金がかかるとは限らない?~遺言書の3つの種類~

やっぱり、息子の言うとおり、遺言書は残しておいた方が良いのねー。ふーん。…でも、弁護士や専門家に依頼するとお金かかるし。結構高いっていうじゃない。お金をかけずに遺言書を残す方法はないのかしら。

遺言書を残すに、お金がかかるとは限らない

「遺言書」のキーワードで検索してみると、確かに銀行や弁護士事務所の記事なんかが、上位に表示されますよね。 すると、なんとなーく、弁護士に依頼したり、銀行で管理してもらわないと遺言書を残すことが出来ないと考えてしまうかもしれません。

しかし、実際はそんなことなく、作成方法によってはお金をかけずに遺言書を残すことも出来るのです。

遺言書の作成方法は以下の3つにわけることが出来ます。

  1. 自筆証書遺言
  2. 公正証書遺言
  3. 秘密証書遺言

具体的にどのような方法なのかメリットやデメリットともに確認していきましょう。

自筆証書遺言のメリット・デメリット

自筆証書遺言とは、簡単に言うとすべて手書きで書く遺言書の方法です。用意するものは紙とペンと印鑑だけ。手軽に書けることが最大のメリットです。

自筆証書遺言は原則として、すべて手書きで作成する必要があります。

とはいえ、2019年1月から2020年7月にかけて施行された相続法改正法によって、利用しやすくなりました

利用しやすくなったポイントとしては、

  • 財産目録(※)をパソコンやワープロを使って作成可能になった
  • 法務局で、自分の書いた遺言書を管理してもらえる

※財産目録とは、自身の相続財産をまとめた資料のことです

の2点です。

従来、自筆証書遺言は、すべて手書きで作成しなければいけないため、ミスが多くありました。

また、遺言者自身が遺言書を保管しなくてはいけなかったので、「紛失」や「改ざん」などのトラブルも発生していました。

しかし、2019年1月13日から施行した自筆証書遺言の緩和によって財産目録がパソコンで作成できるようになり、作成時間を短縮できるようになりました。

更に、2020年7月10日には、自筆証書遺言の法務局管理の法律が施行し、3,900円の手数料を支払えば法務局で管理してもらえることが出来るようになりました。

自分で管理していると、ついつい忘れてしまいがちな遺言書の保管場所。こちらが整備されるのはうれしいことですよね。

費用があまりかからず、メリット尽くしに見える自筆証書遺言。手軽な反面、デメリットもあります。

それは…ミスのリスクが高まること

遺言書を残す多くの方は、専門家ではありません。したがって、遺言書の日付や署名を忘れてしまったり、内容が法的な効力を持つものではなかったりというミスが起こりえます。

 

公正証書遺言のメリット・デメリット

公正証書遺言とは、公証役場という場所で、法律の知識が豊富な「公証人」によって作成してもらう遺言のことです。

公正証書遺言のメリットは、何と言っても他の遺言書の作成方法に比べ、正確性が富んでいる点でしょう。 公証人は長年法務にたずさわったひとのなかから、法務大臣の任命によって決まるので、とても知識が豊富です。

また、公正証書遺言は、公証人と打ち合わせをしながら作成することになっています。したがって、自分の希望に沿った遺言書を作成できる可能性が高いです。

更に、作成した遺言書は、公証人役場で保管してくれるので、無くしたり、改ざんされたりといったリスクはありません。こちらも大きなメリットと言えるでしょう。

有効な遺言書を作成することが出来る一方で、手数料が高いというデメリットもあります。公正証書の遺言の手数料は、相続財産の金額や、いくつ契約を作成するかによって異なります。

詳細を確認されたい方は、日本公証人連合会で公表されている「手数料でご確認ください。

秘密証書遺言のメリット・デメリット

秘密証書遺言とは、死ぬまで秘密にしたいことがある方が利用する遺言書の作成方法になります。

作成方法は、署名を自著していればパソコンで作成しても構いません。どんな方法で作成しても良いという部分は、メリットと言えるかもしれませんね。

その後、公証役場へ行き、手数料11,000円を支払って、遺言書に封印などしてもらい、「遺言書があることを記録」してもらいます。なお、公正証書のように遺言書の内容を公証人が確認することはありません。

「秘密」というだけあって、内容は公証人も知られることがないのです。

デメリットは、遺言者本人が遺言書の保管、管理しなくてはいけないことや、遺言書の要件に満たず無効になる可能性があるということでしょう。

他の種類の遺言書は、法務局なり、公証役場なり、遺言書を保管する場所があります。しかし、秘密証書遺言については、現状保管してくれる場所がなく、紛失や改ざんの恐れがあります。

更に、遺言書には遺言者の「秘密」が記載されているので、内容を誰もチェックできません。封印をしてしまったら、本人ですら確認できないので、何かミスがあっても発見されないのです。

したがって、せっかく書いた遺言書が無効になるリスクがあります。 秘密証書遺言は機密性に富んでいるのかもしれませんが、「絶対知られたくない秘密」「生きている間は絶対知られたくないこと」が無い限りは他の方法を利用した方が良いかもしれませんね。

さいごに…

今回は簡単に遺言書について、解説をしていきました。たくさんのことを解説したので、頭がこんがらがってしまう方もいるかもしれません。

そこで、今回のポイントです!

自筆証書遺言」と「公正証書遺言」という言葉を覚えておいてください。「自筆」は「手書き」、「公正証書」は「お金がかかる」と覚えても良いかもしれません。 ひとつひとつ、相続に対する知識を積み上げていき、確実にステップアップしていきましょう!  

 

この記事を監修した弁護士は…


【事務所】弁護士法人ユア・エース
【弁護士】正木 絢生
【所 属】第二東京弁護士会所属
【一 言】相続の問題はさまざま。当事務所では、遺言書や遺産分割協議を中心に相談をうけたまわっております。気になった方は、一度当事務所にご相談ください。

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