【弁護士監修!】成年後見制度と家族信託のちがいとは?

この記事の監修者:弁護士 馬場龍行

【所属事務所】弁護士法人えそら(第一東京弁護士会)

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相続対策で有用だと言われている家族信託。しかし、具体的に法定後見制度や任意後見と何が違うのかと言われると、よくわからない方もいらっしゃるかもしれません。

今回は家族信託と、成年後見制度について考えていきましょう。

成年後見制度には大きく分けてふたつの種類がある!

A
 

家族信託って、相続対策になるそうよ。

B
 

家族信託?それって、成年後見制度と何が違うの?

A
 

わかんないわ。というより…恥ずかしい話、成年後見ってどんな制度なのかもわからないのよね

B
 

おなじく笑 どういうことなのか教えてほしいわ

A
 

そうよね…。まずは、成年後見ってどういうことなのか詳しく知りたいわ。

 

成年後見制度とは、精神上の障がい等が原因で、判断能力が十分でないひとを守るための制度です。

例えば、

  • うつ病
  • 認知症
  • 知的障害

上記は、治療が遅れたり、加齢によって進行し、正常に判断を行えなくなることがあります。判断能力が低下すると、心無い人によってだまされたり、不利な契約を結ばされたりすることがあります。

このように精神上の障がいをかかえているひとが金銭的に不利益を被らないように、後見人等を立て、本人に代わって財産管理等を行います。

成年後見制度は大きくふたつに分けることが出来ます。

  • 法定後見
  • 任意後見

それぞれどのような違いがあるのか、確認していきましょう。

法定後見とは

法定後見とは、判断能力が欠けた状態のひとに対し、本人、配偶者、四親等以内の親族、検察官、市町村長などが裁判所に申立てをすることで、後見人等を決める制度です。

家庭裁判所は、申立て時の書類を審査したり、後見人等候補者と面接することで、一番ふさわしい後見人等を選任します。

申立てする際、対象者の判断能力がどれくらいあるかによって3つのステージに分けられ、次のような名称があります。

  • 後見
  • 保佐
  • 補助

具体的に何が異なるのでしょうか。ひとつひとつ確かめていきましょう。

後見

後見は、判断能力が全然ないひとが対象になります。

例えば、次のような症状がある時に利用します。

  • 寝たきりでほとんど意識のない重篤な症状である
  • 重度のうつ病になっている
  • 日常生活を送れないレベルで認知症が進行している

 

このような症状がみられる時、後見人を申し立てることとなります。

後見されるひとのことを被後見人と言い、後見するひとのことを後見人といいます。

前述のとおり、後見人は家庭裁判所によって選任されます。

後見人に選任された場合、次のような権限が付与されます。

  1. 取消権
  2. 代理権
  3. 追認

 

取消権

被後見人が行った法律行為を取り消すことが出来ます。例えば、被後見人が後見人にだまって自宅などを売った場合、その契約を取り消すことが出来るのです。

ただし、日常生活に必要な契約(日用品の買い物など)を取り消すことは出来ません。加えて、遺言や、結婚、離婚など、本人にしか出来ない法律行為は取り消すことが出来ませんのでご注意ください。

代理権

後見人は、被後見人の財産管理や療養看護に関する契約などの法律を本人の代理として行うことが出来ます。

例を挙げると、介護に関する契約や、被後見人の財産の管理、遺産分割協議の参加等があります。ただし、取消権と同じように、遺言や結婚、離婚など本人にしか出来ない法律行為は対象外です。

追認する

後見人とは、被後見人が同意なく結んだ契約を追認することが出来ます。追認とは、いわゆる事後承諾のことですね。被後見人になった場合、日常生活以外の法律契約(契約を結ぶなど)は後見人が行うこと出来ます。つまり、後見人にだまって契約を結んだとしても、その契約を有効にするには、後見人の承認が必要ということです。

ただし、その契約を一度追認してしまうと、取り消すことは出来ないのでご注意ください。

保佐

保佐とは、判断能力がかなり低い方が対象となります。もう少し具体的に言うと、中度の認知症や、加齢によって判断能力が著しく鈍っているひとなどです。

保佐されるひとのことを被保佐人、サポートを行う方のことを保佐人とよびます。保佐人になった場合、次のような権限を持つことが出来ます。

  1. 同意権
  2. 取消権

 

同意権

保佐人は特定の範囲内で、被保佐人の契約を結ぶといった行為に同意権を行使することが出来ます。具体的に言うと債務や相続、不動産の増改築などに関することです。

なお、日常生活に必要な買い物(売買契約)といったものは、同意権を行使することは出来ません。

取消権

保佐人の同意なく、被保佐人が特定の契約、法律行為などを行った場合、保佐人はその契約などを取り消すことが出来ます。取消権の範囲についても、同意権と同じく裁判所の審判によって定められます。

なお、同意権と同じく日常生活に必要な法律行為については、取り消すことが出来ません。

補助

補助とは、判断能力に不安がある方が利用することが出来ます。軽度の認知症のひとなど、日常生活は問題なく過ごせるけれど、不動産の売買などの契約を結ぶ不安な方が挙げられます。

サポートされるひとを被補助人、サポートするひとのことを補助人と言います。補助人に選任された場合、次のような権限を行使することが出来ます。

  1. 同意権
  2. 取消権

 

同意権

補助を利用する場合、補助人にある特定の範囲内でおこなう補助人の法律行為に同意権を行使することが出来ます。同意権の範囲は、本人の判断能力が考慮され、裁判所の審判で決まります。ただし、日常生活における法律行為はその対象ではありません。

取消権

補助人には、ある一定の範囲内で、被補助人のおこなった契約などの法律行為を取り消すことが可能です。範囲については、同意権と同じく、裁判所の審判で設定されます。

なお、日常生活に必要な買い物などの法律行為は対象となりません。

上記、補足事項として保佐・補助で設定された「同意権」や「取消権」が行使出来る範囲は、裁判所の審判で追加することも出来ます。

成年後見制度は判断能力がない、または低下したひとの財産等を守ることが出来ます。しかしながら、家庭裁判所が後見人・保佐人・補助人を選定するので、かならずしも家族が後見人等に選任されるわけではありません。

むしろ、現状、弁護士や司法書士などの専門家が後見人等の役目を担うケースの方が多いです。

任意後見

任意後見とは、認知症などに備え、被後見人になるひとが元気なうちに後見してもらいたいひとと後見契約を結ぶことを指します。

任意後見と法定後見では次のような部分に違いがあります。

  • 後見人は、本人の希望に沿うことが出来る
  • 判断能力があるうちに将来に備え、後見契約を結べる

 

後見人は、本人の希望に沿うことが出来る

任意後見は、法定後見と違って、被後見人自身が後見人を選ぶことが出来ます。

裁判所ではなく、自分自身で後見人を選任出来るのは大きなメリットと言えるでしょう。

 

判断能力があるうちに将来に備え、後見契約を結べる

法定後見は、対象者の判断能力が落ちてからでないと、申立てをすることが出来ません。

しかし、任意後見であれば、事前に後見契約を結んでおくことが出来ます。

これらの利点がある一方で、任意後見には次のような注意点もあります。

  • 公証役場で任意後見契約を結ぶ必要がある
  • 任意後見監督人を選任しなければならない

 

公証役場で任意後見契約を結ぶ必要がある

任意後見を行う場合、公証役場で任意後見契約を公正証書にする必要があります。公正証書は、公証人という法知識が豊富なひとに作成してもらう必要があるので、費用が発生します。公証役場では、1契約につき、11,000円、その他登記にかかるお金など諸費用も発生します。

任意後見では、後見人と被後見人間で作成した私文書の契約書では成立しないので注意しましょう。

 

任意後見監督人を選任しなければならない

被後見人の判断能力が落ち、任意後見を開始したい場合、家庭裁判所に任意後見監督人の選任の申立てをする必要があります。

任意後見は、当事者が自由に開始時期を設定することが出来ません。任意後見監督人の選任を以て、後見が開始となることを覚えておいてください。

 

家族信託にはたくさんの可能性がある!

A
 

後見って自分の判断能力が鈍らないと利用出来ないのね…

B
 

ボケてなくても、ささっと財産管理とかもろもろ任せる方法ないのかしらねえー。

A
 

確かに!息子とかに財産管理してもらって、そこから出た利益を貰えるみたいな!

B
 

○○円預けたら、キャッシュバック!みたいなね!

A
 

ちょっと待って!それって家族信託なら出来るって聞いたことあるんだけど

B
 

え、そうなの?家族信託ってそんなに便利なの?それなら使ってみたいかも…。

家族信託は、元気なうちから利用出来る 

家族信託とは、信頼出来る親族に自分が望む資産を信託し、資産管理や資産運用を行える制度です。

信託財産を資産運用することによって得た利益は、委託したひとが指定する受益者に還元されることになります。

家族信託を理解するためには、まず次のような登場人物がいるということを知る必要があります。

■家族信託の登場人物

名称役割
委託者財産を委託するひと
受託者委託された財産を管理するひと
受益者委託者の資産運用などによって利益を受けるひと。受託者も含まれるケースが多い

家族信託は、委託者が受託者に財産を委託することから始まります。受託者が委託された財産を使って、委託された財産を、資産運用や財産処分などを行い、得られた利益を受益者に還元するシステムです。

家族信託は、どのような契約を結ぶかによってかなりの違いがあります。契約するひとによって、委託する財産もどうやって活用するのかもかなり差異があります。

株取引などの積極的な財産管理も行えるため、かなり自由度が高く、ご自身の希望に沿ってカスタマイズすることが出来るのです。

家族信託でできることとは?

家族信託が出来ることとして、おもに次のようなものが挙げられます。

  • 委託者の体調に左右されず、資産管理を行える
  • 受益者は本人だけでなく、その配偶者、子どもも設定出来る
  • 委託者が自由に受託者を指定出来る
  • 好きな時に信託を開始することが出来る
  • 委託者が死亡した後も信託を行うことが出来る
  • 遺言の代用になる

 

委託者の体調に左右されず、資産管理を行える

委託者から委託した財産は、受託者名義の口座や不動産になるので、委託者が重度の認知症等になった場合でも、滞りなく資産運用を行うことが可能です。

受益者は本人だけでなく、その配偶者、子どもも設定出来る

家族信託の受益者は、委託者本人だけでなく、その配偶者や子どもも対象にすることが出来ます。法定後見・任意後見では、被後見人等本人のみが受益者の対象なので、大きな違いです。

委託者が自由に受託者を指定出来る

家族信託では、委託者が受託者にしたいと思うひとに財産を任せることが出来ます。法定後見では、家庭裁判所が後見人等を選任することになります。

好きな時に信託を開始することが出来る

家族信託は、信託を開始する日を委託者が好きなように設定出来ます。委託者が健康な時から利用を開始することも可能なのです。

委託者が死亡した後も信託を行うことが出来る

家族信託は、委託者が死亡した後でも、他に受益者が指定されている場合には、引き続き信託を行うことが出来ます。

遺言の代用になる

家族信託は遺言書の代用にもなり得ます。というのも受益者の権利を次の世代に承継することが可能だからです。

遺言書では、自身の遺産を自身の子どもや配偶者に相続させることは出来ますが、自分の死後、子供や配偶者が相続した財産の、相続財産の指定までは出来ません。

しかし、家族信託では、受益者の権利を引き継がせることが出来るのです。

二次相続以降の相続を考えているかたにとってはとても有効な手段と言えるでしょう。

上記のように、委託者の意向に沿った信託契約を結ぶことが出来るのは、最大のメリットと言えるでしょう。

家族信託にも限界がある

家族信託は自分の財産を信頼出来る家族に管理・運用してもらうことによって、得た利益が自分に返ってくる画期的なシステムです。

しかしながら、家族信託にも出来ないことがあり、次の通りです。

  • 委託者に相続が発生した場合、遺産分割協議等の代理権はない
  • 身上監護権は付与されない
  • 家族信託契約を公正証書にしておくべき

 

受託者は法定代理人ではないので、法律行為を代理することはできない

家族信託の受託者は、委託者の法定代理人ではないので、代理権や同意権は付与されません。
例えば、委託者が相続人になり、遺言書が無い場合、遺産分割協議を行うことになります。遺産分割協議は、法律行為のひとつで、本人か法定代理人でないと参加することができません。
受託者が遺産分割協議に参加するためには、法定後見の後見人等に選任されるか、事前に任意後見契約を結び、後見開始の手続きを行う必要があります。
ただし、成年後見を開始するには、対象者の判断能力の低下が条件です。そのため、判断能力の低下がみられないときには、本人が参加することになります。

身上監護権は付与されない

家族信託で受託者になったとしても、身上監護権があるかどうかは別問題です。身上監護権とは、身の回りの世話をする権利です。つまり受託者だからと言って、認知症などで本人の判断能力がない時に、代理して医療や介護に関する手続きなどを行って良いというわけではありません。

とはいえ、受託者が委託者の配偶者や子ども等の家族である場合には、あまり心配しなくても良いでしょう。

家族信託契約を公正証書にしておくべき

家族信託は、口約束や当人同士の契約でも成立します。しかしながら、いくら信頼出来ると言っても、信託する財産は少なくないはずです。そのため、公正証書にとりまとめを行うことをおすすめします。

公正証書にしておけば、万が一受託者が委託された財産を勝手に使ったりした場合に、行使出来る手段が増えます。加えて、あらかじめ公正証書にしておけば、それが抑止力となり後々のトラブルを回避出来るかもしれません。

リスクヘッジのためにも、家族信託を利用する場合には公正証書を検討しましょう。

 

まとめ

今回は成年後見・任意後見・家族信託の仕組みについてそれぞれ解説させていただきました。それぞれメリット、デメリットがありますが、積極的に資産運用を行いたい方、ご自身の財産を自由に運用してほしいという方には、家族信託がおすすめです。

とはいえ、家族信託は契約する内容に自由がある分、複雑になる可能性が高いです。そのため、家族信託に興味がある方は、弁護士などの専門家への相談をご検討ください。

 

この記事を監修した弁護士は…

【事務所】弁護士法人えそら
【弁護士】馬場 龍行
【所属】第一東京弁護士会所属
【一言】弁護士法人えそらは、お客様の理想を実現するため、日々精進しています。相続では家族信託を中心に承っておりますので、お困りの際はお気軽にご相談ください。
弁護士法人えそらのことをもっと知りたい方はこちらもご参考ください。
【家族信託に強い】弁護士法人えそら
弁護士法人えそらとは? 弁護士法人えそらは、事務所がある東京中心に全国対応をおこなっている事務所で、代表者は馬場龍行と鹿野舞が共同でつとめております。 当事務所が大切にしたい理念は、「人の力を信じること」。これは、事務所名である「えそら」の...